海外在住者におすすめ!海外や外国を舞台に活躍する日本人が主人公の小説6選

休みの日はプールサイドでゆっくり読書…。そんな夢を日々妄想している。そんな筆者が好きな小説のジャンルの一つが「海外を舞台にした作品」。もっと言うと、「海外を舞台にしつつ日本人が活躍する小説」である。

自分自身が海外で働く以上、フィクションといえど海外で活躍する日本人は、将来の自分の姿を投影することができる。あるいは異国の地で奮闘する日本人に対する、根本的な憧れかもしれない。

今回は、これまで筆者が読んできた小説の中から、お気に入りの何冊かを紹介したい。ちなみに海外在住者が日本の書籍を読もうと思った場合、圧倒的にKindleを利用するほうがお得である。

総督と呼ばれた男(佐々木譲)

戦時中のシンガポールを題材にした小説。筆者(私)がこの本を読んだのはたしか中学生のころだった気がする。学校の図書館で借りた。

この作品は戦前、戦中のシンガポール、マレーシアの様子がよく分かる。戦争のダイナミックさよりは、一人の男を中心としたドラマチックな物語に引き込まれ、上下巻を一気に読了した記憶がある。

主人公の木戸辰也はまさに「裏世界のドン」「アジアの帝王」といった言葉が似合う男だ。マレーシアのゴム農園から脱走し、怪傑ハリマオ(!)と組んでの列車強盗。そして最終的には、シンガポールを裏社会から牛耳るギャングスターになる。個人的には、最後のエピローグ部分が最もゾクッとした。

一方では、戦争のあった激動の時代、海外にある日本人社会はどのような状況立場だったのか。そして母国日本に帰るに帰れない現地在住日本人にとって、いったい戦争とは何だったのか。

著者の佐々木氏は、最近でこそ警察を題材にした小説で有名だ。しかしかつては、この作品の他、『ベルリン飛行指令』『ストックホルム密使』『エトロフ発緊急電』など戦時中の世界各地を舞台にした小説を多く描いている。著者が書いたシンガポールを舞台にした小説は他に『昭南島に蘭ありや』がある。

神鷲商人(深田祐介)

インドネシア在住者なら間違いなく読むべき一冊。インドネシアの戦後賠償を巡る日本の商社とインドネシアの政治の物語。

デヴィ夫人と東日貿易の元社員・桐島正也さんという実在の人物がモデルとなっている。作中では名前が微妙に違うが、その他スカルノ・スハルト両大統領や9・30クーデターの際の将軍名などはそのまま出てくる。建物や歴史事象も忠実に描かれているので、ほとんどノンフィクションといっても過言ではないフィクション。

特に物語のクライマックス、9・30クーデター前後の緊迫感の表現は見事。実際に1998年5月暴動を体験した筆者(私)からすれば、当時を思い起こさせるようなリアリティがった。軍のクーデターと民衆の暴動という違いはあれど、国家元首の変更をともなう国の転換点といった意味では同じだろう。

現代では20代の日本人社員が大統領に取り入るということは考えられない。が、インドネシアで仕事をする者にとっては「一度はこんな人生を歩んでみたい!」と思わせられる。

なお、桐島さんについてはじゃかるた新聞がかつてインタビューをしたほか、書籍も刊行されている。桐島さんには本当にハルティカのような女性がいたのだろうか…。

プラハの春(春江一也)

初版が発売されたのはもう20年も前。物語の舞台はさらにそこから30年以上前。こう聞くとかなり古めかしい小説のようにも思える。

1968年に起こった「プラハの春」当時、チェコ・スロバキア日本大使館勤務だった著者の体験談に基づく小説。著者の春江さんは当時、プラハの春発生の第一報を本国へ連絡した人物。

小説の中身はプラハの春前後の共産主義社会の反体制活動家(カテリーナ)と、西側外交官(堀江)の壮大なラブロマンスストーリー。

ラブロマンスとはいえ、実際に著者がプラハに長く滞在したことがある。そしてプラハの春を体験したとあって、作中の各表現におけるリアリティや臨場感は素晴らしい。先に紹介した『神鷲商人』同様、かなりノンフィクションに近いフィクションである。

ちなみにこのシリーズは続編として『ベルリンの秋』『ウィーンの冬』がある。成長したカテリーナの娘・シルビアが登場する。

他にも、個人的に春江作品でおススメなのは『上海クライシス』。上記シリーズとは色合いがやや異なるが、こちらは21世紀の中国が舞台なので、より取っつきやすいかも。

アジアの隼(黒木亮)

90年代のアジア通貨危機前のベトナムが舞台。主人公は長債銀(昔の日本長期信用銀行、現新生銀行)からベトナムへ赴任した真理戸潤。電話に出る際の「マリト、スピーキング」が印象的。

著者の黒木さんは国際金融の実務経験で、エジプト留学やロンドン出向の実績もある。黒木さんはかつて講演で、自分が書く小説は「言葉はわかるが詳細が知られておらず、世の中の関心が高い」「自分の心に響く」「日本人に伝える意味がある」という3つのテーマを基に作られていると述べている。

確かに「アジア通貨危機」や「ベトナム」といったテーマは興味関心が向くわりに、小説のような取っつきやすい媒体が多くない。今後グローバル化が進む世の中なら、世界ではこんなことが起きた、ということを知っておくのも必要だろう。

上記についての記事はこちら。

『アジアの隼』は自身二作目の作品で、取材を綿密にしてというよりは自身の体験を基に描いたという。代表作が他にもある中でこれを挙げたのは、別に理由があるわけではない。たまたま一番最初に目にした黒木小説がこれだった。ただこの小説を読んで、面白いと感じたからこそ、著者の他の小説も読んでみようという気になる。

やはり本人の実体験を基にした小説は、伝わってくる臨場感が違うのだろう。そういった意味では前述した春江作品に酷似している。ただし、あちらは外交、こちらは金融というジャンルの違いはある上、『アジアの隼』はノンフィクションに近いとは言えない。

ちなみにこの作品は、Kindle Unlimitedで読むことができる。

黄金の島(真保裕一)

舞台は90年代のベトナム・ホーチミン。黄金の島とはジパング、すなわち日本。

ダイナミックさや臨場感はあまりなく、淡々と物語が進む。クライマックスの展開が報われなかったり、エピローグにやや不満が残る部分もある。

今でこそ急激な経済成長を遂げているベトナム。だが、かつては抑圧された環境の中で、どうにか現状打破しようと民衆があがいていた時代もあったのだろう。

作品中で「裕福になって幸せになりたい」という至極単純な夢に向かって生き続けるベトナムの青年達。彼等の生き方こそ、現代の日本人から、そして裕福に「なってしまった」人間が忘れているものではないだろうか。働かなくても生きていける、そんな裕福な国で生活している内に、何かを追い求めることすら忘れている人間は多い。

一度きりしかない人生、何かに向かってガムシャラに生きたい。そう思って日本を飛び出し、海外で就職した筆者(私)にとっては、作中のベトナム青年たちの生き方と志は眩しく映った。

上下巻合わせて1,000ページ近くの長編小説ながら、重厚感はなく、一度読み始めると一気に読破できてしまう。個人的に一番印象的だったのは、トゥエイが修司のもとを訪れ身を寄せるよう頼むシーン。

「(略)あとはもう、女の体を使うしかない。ほかに何か、男たちと同じだけの時間を使って、同じようにお金を稼げる仕事があれば、教えてほしいわ。ねえ、何かある?」

何もなかった。トゥエイの放つ感情の波に押しまくられ、修司は何一つ反論を返せなかった。

(略)一心に見つめてくるトゥエイの濡れた瞳から、修司は目が離せなかった。ここで顔を背けては、彼女を哀れみ、貶めることになる気がした。彼女は計算と演技を捨て、全身でぶつかってきていた。目をそらさずに、彼女を見つめた。

「わたしには、これしかないの。このまま、こんな国で終わりたくない。だから、助けて。お願いだから」

黄金の島(上)より抜粋

現状をどうしても打破したい。そんな強い気持ちが感じられるシーンだった。

タックスヘイヴン(橘玲)

舞台は震災後のシンガポールがメイン。とはいえ東南アジア全土が舞台でもあり、物語の終盤ではタイやミャンマーも舞台となる。

ハードボイルドな古波藏に、等身大の牧島、二人の主人公は小説として程よい均衡にある。古波藏は国際金融裏の専門家としてフィクション的な面白さを。そして牧島は実際にいそうかもという等身大の存在感でノンフィクション的な面白さを引き出している。

前述した『アジアの隼』と同様国際金融サスペンスだが、こちらのほうが物語の年代が新しい。その分、若者や国際金融に馴染みのない人にとっても読みやすいし、実際に筆者も一気に読了した。