ジャカルタMRTに乗ってみた。日本の技術で作られたインドネシアの地下鉄。

 

構想から30年を経て、ようやくジャカルタにMRTが開通しようとしています。

1980年に構想が始まり、2005年に国家プロジェクトとして位置づけられ、2013年に着工。大通りを通す工事とあって、ここ数年はスディルマン通りの渋滞が極悪なものでした。

それでも昨年のアジア大会を契機に地上歩道区間の整備も始まり、この一年は目に見えてジャカルタの街が綺麗になっていくのを日々実感することが出来ました。

 

 

2019年3月末。ジャカルタ市民が待ち望んだMRTがようやく開通を迎えます。

4月に控えた大統領選挙では、現職のジョコウィ大統領がインフラ整備の成果としてMRT開通をアピールするため、現在も急ピッチで工事が進んでいます。

そして3月12日から一般市民へのMRT試乗会が始まりました。試乗会2日目、筆者も行ってきたのでレポートします。

注釈:3月24日より正式開通しました。

本記事は2019年3月に実施された先行試乗会の模様となります。通常運行が開始された現在は、インドネシア人を始め多くの乗客が利用しており、実際には写真のように空いていません。

 

MRTの乗車方法(2019年4月以降)

3月で試乗会、および無料乗車期間は終了しました。

4月1日から乗車料金を徴収しての営業運転が始まっています。2019年4月いっぱいはMRT普及のため半額運賃で運航されています。5月も半額運賃でしたが、6月以降は通常運賃となっています。

MRTの乗車は、トランスジャカルタ同様に各銀行が発行している電子マネーで乗車することが出来ます。例えばBCAのFlazzや、MandiriのE-MoneyBRIのBRIZZIなどです。

また駅の窓口でシングルトリップチケットを購入することもできます。ただ現状かなり人が並ぶ場合もあるので、可能なら電子マネーを用意しましょう。便利ですよ。

 

ベンヒル駅(Bendungan Hilir)から乗車

インティランド側(スディルマン北行き)の入り口。現在は反対側のサンプルナビル(スディルマン南行き)の入り口もあります。

 

今回はBendungan Hilir(ベンドゥンガン・ヒラー/通称:ベンヒル)駅から乗車します。駐インドネシアEU代表部が入るインティランド・タワーの目の前に入口がありました。

コンコースまで降りるのは階段です。下りのエスカレーターがなく、雨が降った時などは滑らないかが少し心配になります。

 

 

降りると職員の方が待っており、手続きブースへと案内されます。平日朝一の時間帯ということもあり、試乗会2日目でしたがガラガラでした。

 

窓口、券売機ともに通常運行開始後はオープンしています。

 

券売機はあるのですが、1~2台しかありません。トランスジャカルタ同様、ほとんど電子マネーによる乗車を想定しているのでしょう。シンガポールやバンコクみたいに、駅で電子マネーが購入できるようになると外国人旅行者にも便利ですね。

 

 

各駅にはコンビニや薬局、スタバなどが入るそうですが、Bendungan Hilir駅はひとまずA&Wが入るようです。

(注釈:その後ファミリーマートもオープンしていました。)

 

試乗会専用のシールです。現在はありません。

 

ホームへ降りる前に、シールを貼られます。やはり2時間だけの限定乗車のようでした。ちなみにこのシールは試乗を終え改札を出る時に回収されました。

 

いざ、乗車ホームへ

 

試乗会なので、改札を通る前に簡単なセキュリティチェックを受けます。開通した際も受けるのかは分かりませんが。セキュリティチェックがあると混雑し人件費もかかる一方、行わないとなるとテロなどの不安があります。

案内板の表示はインドネシア語と英語の二言語になります。

 

 

階段を降りていくと、すでに車両が停車していました。が、Bundaran HI(ホテル・インドネシア)駅方面行きだったので見送ります。

この時点で筆者は違和感を感じていました。何かわかるでしょうか?

 

 

答えは、MRTの進行方向です。

日本の一般車道は左車線(左側走行)です。日本の地下鉄や電車も同様に左側走行(自分が正面に立って、左側が電車が自分と同じ向きに走る)になります。

インドネシアの一般道路も左車線なのですが、ジャカルタのMRTは電車の進行方向が車道とは逆の右側走行になります。言葉で説明すると分かりにくいので、図で説明すると以下の通りとなります。

世界的にも一般車線と鉄道の車線が逆というのは珍しいそうです。旧宗主国のオランダの影響を受け、法令で電車の走行車線は右側と決められているようです。とは言え、この違和感もすぐに慣れるでしょう。

 

現在は各駅スポンサー企業名が付いています。

 

フェーズ1で開通する停車駅は全部で13駅です。表示では「ASEAN」となっている駅ですが、実際はSisingamangaraja(シシンガマンガラジャ)駅という非常に言いづらい駅です。とはいえ、ASEAN本部の目の前なので、名称としては間違っていません。

(注釈:通常運行開始後、正式にASEANという駅名になり、Sisingamangaraja駅という名称はなくなりました。)

 

 

電車は10分間隔で運行されています。実際に運用が始まった際の運行間隔は分かりませんが、10分間隔ならそこまで待つこともなく、不便はしなさそうです。

(注釈:現在は平日朝と夕方のラッシュアワーは5分間隔で運行がされています)

 

 

南方面Lebak Bulus(レバック・ブルス)駅行きの電車が来たので、いよいよ試乗開始です!

 

待ち望んだMRTの車内風景。

 

2015年3月に住友商事と日本車輌製造が共同で受注した綺麗な車両。出来上がった車両ごと船に載せられ、日本の豊橋港からタンジュンプリオク港まで船便ではるばる運ばれてきました。

プラスチックの固いイスは決して座り心地が良いとは言えませんが、電車が全然揺れないのであまり気になりません。

車内の温度は23度でしたが、太陽光が差し込む日向側に座っていると暑く感じます。

各駅の停車時間は約20~30秒。定刻通りの運航がされていました。

 

その後、Lebak Bulusは配車アプリの「Grab」が命名権を取得しました。

 

車内アナウンスも電光掲示板もインドネシア語と英語の二言語版です。走行音がめちゃくちゃ静かというわけではないので、少しアナウンスが聞き取りづらいのが気になりました。

恐らく今後各駅ごとにスポンサーが付くのでしょう。Istora駅はMandiriビルが近く、すでに「Istora Mandiri」という名前が付けられているようでしたが、Lebak Bulus駅は未定なので「Sponsor 1」とテスト表示されています。

車内及び車窓の動画は以下のツイッターからどうぞ!

 

 

ジャカルタの車窓から。

地上区間に出てから、見慣れたジャカルタも少し高い視点から見ると全く異なる景色を見せてくれることに気が付きます。

 

 

 

まずは、昨年日本でも話題になったBlok M(ブロックエム)駅です。ここはホームが3つあり、規模の大きい中間駅となっている感じがうかがえます。奥にはブロックMスクエアも見えます。

ベンヒル駅からブロックエム駅まではわずか7分。深夜の空いているスディルマン通りをかっ飛ばさない限り、車では無理です。

 

 

こちらはポンドックインダー地区の日本人御用達アパート「Bukit Golf Apartment(通称:ゴルフヒル)」と「Pondok Indah Golf Apartment(通称:ゴルポン)」です。

幼少期、日本人の友人が多く住んでおり、ここのアパートメントでよく遊んでいました。15年を経て、こんな角度から見られるとは思いもよりませんでした。

 

 

こちらも日本人御用達アパートメント「Apartment Bumi Mas(通称:ブミマス)」です。そして手前にあるのはLittle Osaka Food Town(通称:ロフト)です。

ロフトは2018年にオープンしたばかりの日系店舗が入った複合施設で、じゃかるた市場(スーパーマーケット)やさかなや(鮮魚店)の他、キッチン88など各種レストランが入居しています。

これまでは目の前のファトマワティ通りでずっと道路工事が行われており、近辺でも特に渋滞がひどいエリアでした。またジャカルタの中でも南に位置するため、中央ジャカルタ在住者にとっては行きたくても腰が重い場所でした。

しかしMRTが開通すると一転!Cipete Raya(チプテ・ラヤ)駅からわずか300mの好立地と変化します。恐らくロフトの方々は、在住邦人の中では誰よりもMRT開通を喜んでいるのではないでしょうか。

 

 

さらに南へ進むと、90度カーブを経て、Fatmawati(ファトマワティ)駅が見えてきます。この辺りも10年前は高い建物がなかったのですが、様変わりしましたね。MRTの開通で、今後はこのエリアの開発も進むことでしょう。

 

 

ファトマワティ駅のそば、ジャカルタ最南端の大通りシマトゥパン通り(ポンドック・ピナン高速道路)沿いから眺めた中央ジャカルタのビル群です。ジャカルタも「メガロポリス」という言葉がふさわしい都市になりましたね。

 

 

フェーズ1の終点Lebak Bulus(レバック・ブルス)駅には車両基地があります。この車両たちも、はるばる日本からやってきたものと考えると非常に感慨深いです。

ベンヒル駅からレバック・ブルス駅までは20分。平日夕方の渋滞時などは車だと2時間掛かることもあります。

 

 

ちなみにベンヒル駅からレバック・ブルス駅までの区間で、すでに広告が出されていたのは大手旅行予約サイトtiket.comだけでした。なんで試乗会予約サイトがtiket.comじゃなかったんでしょうね…。

 

まとめ

MRTにとって予想外だったのはGo-jek・Grabといった配車アプリでしょう。建設が始まった当時は全く無名だったこれらの企業も、数年の間で今や社会インフラと化しています。

例えばスディルマン通りにあるオフィスからブロックMのレストランに行く場合。ドアtoドアではバイクもMRTも同じように20~30分前後でしょう。料金も、MRTは10kmまで8,500ルピアとなったので、バイクでの移動なら料金も時間もそこまで変わりません。

(注釈:1駅移動の最低運賃は3,000ルピア、最長区間の運賃は14,000ルピアと決まりました。なお、ベンヒル駅からブロックM駅までは6,000ルピアです。)

しかし雨ならMRT、晴れていればバイクと使い分け出来る選択肢が増えたことは非常に意義があります。特に雨季はMRT需要が増えることが予想されるため、雨季が終わり乾季が始まる3月末に開通したのは少しもったいないようが気もします。

そしてMRTは、配車アプリや既存の交通機関との共存も出来ます。中央部の駅周辺ではトランス・ジャカルタ新設される低床式路線バスが、南部の駅周辺ではバイクや車の停留所や乗車所を設ける「パークアンドライドシステム」の計画が進んでいます。

こうしてジャカルタの交通機関がどんどん良い方向へ進み、国家の発展を阻害している世界最悪の渋滞が緩和されればジャカルタの未来はさらに明るいものとなるでしょう。

 

MRT開通の日はジャカルタが生まれ変わる日といっても過言ではありません。

たとえ政治アピールの要素が含まれていたとしても、市民(といわけ選挙権のない外国人)からしたら、目抜き通りの工事が終わり、渋滞や天気に関係なく南北の移動が時間通り行えるようになる、というのは素晴らしいことで市民が待ち望んだことだと思います。

それが日本が主導し、日本の協力のもとで創成されると思うと、同じ日本人として少なからず誇りに感じます。これまでMRT建設に携わられた方々に、感謝と労いの言葉を掛けたいです。ありがとうございました、と。