日本のメディアでは取り上げられていませんが、先日ジョグジャカルタでマリファナを所持・使用したとして画家の日本人が逮捕されました。地元紙Detik Newsでは容疑者の顔写真入りで記事が掲載されています(名前についてはKNKという略称のみ)。
報道は以下の通りです(日本語訳は完訳ではなく意訳です)。
日本人KNK(69歳)(KNKはおそらく苗字の略称)は、マリファナの所持使用でジョグジャカルタ警察に逮捕された。またKNKの他、画家のTommyも逮捕された。
「19時、ジョグジャカルタのセウォン地区にあるTommy宅で2名を逮捕した。」とジョグジャカルタ地区警察長Armaini氏は述べた。2人は絵画のアーティストとして知られている。警察の発表では、両名ともマリファナの使用を自供した。葉っぱや種など、複数タイプのマリファナがTommyの住居から発見された。
2人はEとMという頭文字の人間からマリファナを購入したと述べた。EとMはインドネシア警察のもつ容疑者リストに載っている人物らで、現在も逃亡中である。警察はこの2つの名前(EとM)を調査すると同時に、逮捕された2人が本当のことを述べているかについても調査している。Tommy宅で発見されたマリファナは、Tommyが3か月前にEとMから購入した種から栽培されたものだという。
KNKとTommyの身柄は引き続きジョグジャカルタ警察に拘留されている。2人はインドネシア共和国法35号(2009)第111条2項と第127条1項に該当し、最大で懲役20年または罰金80億ルピア(約6,000万円)の刑罰が科される。
インドネシアの刑罰については、以前は日本人が起こした児童買春に際し、その刑罰を調べたことがありました。ステレオタイプに沿って誤解を恐れずに言うなら、東南アジアで外国人が起こす犯罪というと買春もしくは薬物使用が二大巨頭かと思います。今回日本人が薬物使用で逮捕されたというニュースを見て、再び『刑罰はどれくらいだろう』という疑問が湧きました。
刑罰の概要については記事中でも述べられているので、法律のほうを掘り起こしてみようと思います。
Pasal 111(第111条)
(1) Setiap orang yang tanpa hak atau melawan hukum menanam, memelihara, memiliki, menyimpan, menguasai, atau menyediakan Narkotika Golongan I dalam bentuk tanaman, dipidana dengan pidana penjara paling singkat 4 (empat) tahun dan paling lama 12 (dua belas) tahun dan pidana denda paling sedikit Rp800.000.000,00 (delapan
ratus juta rupiah) dan paling banyak Rp8.000.000.000,00 (delapan miliar rupiah).麻薬を栽培・保有・保存・使用・提供するものは、4年以上12年以下の禁固刑および8億ルピア以上80億ルピアの罰金刑となる。
(2) Dalam hal perbuatan menanam, memelihara, memiliki, menyimpan, menguasai, atau menyediakan Narkotika Golongan I dalam bentuk tanaman sebagaimana dimaksud pada ayat (1) beratnya melebihi 1 (satu) kilogram atau melebihi 5 (lima) batang pohon, pelaku dipidana dengan pidana penjara seumur hidup atau pidana penjara paling singkat 5 (lima) tahun dan paling lama 20 (dua puluh) tahun dan pidana denda maksimum sebagaimana dimaksud pada ayat (1) ditambah 1/3 (sepertiga).
重量が1キロを超える場合もしくは麻薬栽培の木の本数が5本を超える場合、5年以上20年以下の懲役および1項の罰金額にさらに1/3を加えた金額の罰金刑となる。
(第127条については、麻薬からの社会復帰に対する文言のため省略します)
所持・使用の刑罰といっても、その所持量・使用量によって量刑が変わってきます。重量が1キロもしくは栽培している場合苗が5本以上あるというのが基準です。どちらに抵触したかは分かりませんが、地区警察長の発言から察するに量が多く重い刑罰が科される見込みです。
最大刑の場合、禁固20年および106億ルピア(約8,000万円:80億ルピア + 80億ルピア × 1/3)となります。ここでは「および」というのが肝です。インドネシア語原本の文面上では ”dan” つまり「および」と表記されています。こういうとき罰金を払えない人はどうなるのでしょうかね。
ともあれ69歳の外国人が最低5年以上、最大20年以上の禁固刑。地獄の沙汰も金次第と言われるインドネシアの刑務所で、刑期を全うすることが出来るのでしょうか。そのあたりも情状酌量はあるのでしょうかね。ジョコウィ政権になってから麻薬、特に売買については厳しい姿勢で臨んでいるため、仮に栽培からの売買への関与が認められたら、マックス20年もあり得るでしょう。
ジョグジャカルタと言えば、インドネシアの古都であり世界遺産ボロブドゥール遺跡やガジャマダ大学もあり、教育・文化の土地といったイメージが定着しています。そのため、バリと並んで外国人アーティストが多い地です。筆者の勝手な考えですが、そういう土地柄では薬物使用も多いイメージを受けます。先日インドネシアを舞台にした小説を紹介した中で取り上げましたが、バリを舞台にした小説『花を運ぶ妹(池澤夏樹)』は麻薬使用で死刑となったアーティストの兄を妹が救う物語です。
実際には使用だけだと死刑にはならないようですが、売買が絡むと前述の通り分かりません。シンガポールのように即死刑ということはありませんが、海外に来て気が緩んだところで調子乗って薬物使用で捕まる日本人は毎年一定数います。バリやジョグジャカルタを訪れる際は、そういった誘惑にも気を付けてください。